安倍晋三、死後もなお続くアベガーたちの悪魔化運動と国民的政治家としての特異性【宝泉薫】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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安倍晋三、死後もなお続くアベガーたちの悪魔化運動と国民的政治家としての特異性【宝泉薫】

 しかも、アベガーにとって好都合なことに、犯人は統一教会への恨みを口にしているという。母が信仰にのめりこみ、それによって自分の人生がおかしくなったため、その宗教団体とつながりを持つらしい大物政治家を殺したという動機が伝えられている。それが本当なら、所詮、逆恨みにすぎない。子は親を選べないという意味で、すべてが自己責任とも言い切れないとはいえ、なるべく他人を巻き込まずに、自分自身で決着させるしかない問題だからだ。

 ただ、統一教会にはこれまで培われてきた負のイメージがあり、アベガーはそこを免罪符に利用できる。いわば、悪魔同士がつながっていたから、殺されても仕方ないのだという、責任転嫁に使えるのである。

 なお、政治と宗教がある程度つながるのは当たり前のことだ。政治とはつまるところ、利益の配分調整なのだから、支持してくれそうな勢力は受け容れ、その便宜を図る。この能力に優れていたことが、安倍を大政治家にした。はっきりいって、共産主義とは国益上、絶対に組めない以上、つながる相手として統一教会はまだマシだろう。

 そういえば、彼の死で未亡人になってしまった安倍昭恵に、有名な写真がある。「アベ政治を許さない」と書かれた紙を持った人たちと、笑顔で記念撮影しているものだ。自分以上になんでも受け容れるタイプの妻の自由奔放な振る舞いも、あっさりと受け容れるのが安倍流でもあった。

 が、そんな安倍流は両刃の剣だったりもする。なんでも受け容れ、取り込みながら強大化していく姿は、嫌いな人にはいっそう悪魔的にも映っただろう。

 とはいえ、彼はアベガーに対し「こんな人たちに負けるわけにはいかない」とは言ったが、弾圧をするわけではなかった。いわば、安心して叩ける悪魔だったのだ。しかも、叩くことで野党は存在感を保てるし、メディアは儲かる。ひょっとしたら、死んだことでますます叩きやすくなったと思ってる人もいるのではないか。もはや歴史的悪役、それこそ、ヒトラーあたりと同じ扱いかもしれない。

 ただ、沈黙した人もいる。左翼的芸能人の小泉今日子がそのひとりだ。2年前には、

「こんなにたくさんの嘘をついたら、本人の精神だって辛いはずだ。政治家だって人間だもの」

 と、ツイート。人間性を疑うような指摘をして、そこに「さよなら安倍総理」というハッシュタグをつなげたりした。が、今回の暗殺についてはまだ何も言及していない。その死によって、彼も「人間」だったことを改めて思い知らされ、ショックを受けたのだろうか。

 あるいは、人気とイメージがすべての芸能界で一度は成功した人だから、彼に好感を持つ人のほうが、アベガーよりも多いことにそろそろ気づけたのかもしれない。

 ちなみに、人気がありながら志なかばで非業の死を遂げた人は怨霊になるので、祀って鎮めなければいけないという伝統的心理が日本にはある。が、今回はこんなツイートを見かけた。

「安倍元総理が怨霊になる姿は想像できない。人柄ですね」

 いっそ、怨霊になってアベガ―を恐れさせてくれれば痛快なのだが、たしかに彼はそういうタイプの人ではないように思える。

 実際、海外のほとんどの国では悪魔化する必要もないため、人間としての追悼が普通に行われているようだ。米国の政治評論家、トバイアス・ハリスはこんな言葉を手向けた。

「時に孤独な戦いを行ってきた安倍は、危険な世界で国を守ることができる『強い国家』という彼のビジョンを、国民が理解しはじめたかもしれない矢先に逝ったのだった」

 また、遭難の知らせを聞き、病院に急行した菅義偉前首相は「淋しがり屋でもあったのでそばにいてやりたいと」と、故人の人柄も合わせて哀しみを吐露した。

 悪魔化に取り憑かれた人にはそんな「人間・安倍晋三」が見えない。ただ、その悪魔化運動が彼のカリスマ的イメージをさらに強大なものにした。そのイメージは、実体をはるかに超えるものだ。皮肉なことに、アベガーが日本史においても類を見ない国民的政治家を生み出したといえる。

 

文:宝泉薫(作家・芸能評論家)

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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